陶芸作家
中村哲雄さんインタビュー / 後編
試行錯誤の連続。
でも、難しいからこそ、楽しい。
Interview with Tetsuo NAKAMURA
text・photo/Masami INOSE
インタビュー前編はこちら
— 改めて、中村さんのうつわの作り方を教えていただけますか。まず、使っている陶土から。
中村 土は奈良県の月ヶ瀬産のものを使っています。陶芸に使われる土には不純物を取り除いたものもあるんですが、僕が使っているのはそういった精製された土ではなく、わりと原土に近い土ですね。月ヶ瀬産の土はたまたま知り合いが使っていたというのもあって、一度、粘土業者さんから取り寄せて使ってみたんですね。そうしたらすごくいい感じだったので、そのまま使わせていただいています。
陶土を成形した後に一度乾燥させる。
写真は中村さんのシグネチャーともいえる丸縁鉢
photo/Tetsuo NAKAMURA
ろくろ成形に使用する小道具
photo/Tetsuo NAKAMURA
— 釉薬はどんなものを?
中村 僕は木の灰を原料にした灰釉と呼ばれるものを使うことが多いです。「十月の猫」さんにお送りしたうつわもすべて灰釉を使ったもので、配合を変えて何種類かの灰釉を使っています。「粉引」は本来は透明釉を使うのですが、灰釉を使った「灰釉粉引」というものに仕上げています。
— 私、中村さんの粉引すごく好きなんです。ベージュっぽい色や緑っぽい色、いろんな色が混じって、風合いに奥行きがあって、上品で。食材の色がより引き立つ気がします。
中村 そうですか。ありがとうございます。
— 焼き方はどのように?
中村 窯の種類には、薪窯、ガス窯、灯油窯、電気窯などいろいろありますが、僕はガス窯を使っています。「還元焼成」といわれる方法で焼いていて、渋い風合いに焼き上がるのが特徴です。
窯場の様子
photo/Tetsuo NAKAMURA
— うつわが完成するまでの道のりで、難しい、楽しいと感じる時は、どんな瞬間ですか。
中村 そうですね、難しいからこそ楽しい、というか。たとえば、これまでとは違う新しいデザインやテクスチャーのものを作る時は、幾度となく試行錯誤があって、なかなか大変なんですが、でも、大変だからこそ楽しいとも言えるのかなと思いますね。
— ITエンジニアから陶芸家に転身された方ってあまりいらっしゃらないと思うのですが、前職と比べてどんなところが一番変わったと思いますか。
中村 もちろん、パソコンに向かってキーボードを叩くような仕事と、実際に体を動かして粘土を触って……という仕事では、性質がまったく異なるわけですけれども。一方で、共通する部分もあると思うんです。さっきも言ったのですが、新しいものをつくり出すとき、例えば、釉薬でも、少しずつ配合を変えたものを何パターンも作って、テストして、その結果を見て検証するんですが、そういった実験的なところはエンジニアリング的な要素があって、共通する部分だなあと。
— トライアンドエラーを繰り返して、ようやくひとつの点にたどり着く。新しいものを作り出すって大変ですね。
中村 作り出す時もそうなんですが、作った後にトラブルが出ることもあるんです。しばらくうまくいってたのに、ある時から発色が思ったように出なくなって、どうしてだろう?という時とか……。ある日突然というより、もともとデリケートなものが、その時の状況や、配合技術のちょっとした改善、火加減などで、今までとはすこし強弱が違ったものが出てくる。特に、新しいものをつくり始めた時は、予想しないようなことが起きたりしますね。
— 中村さんがこれからやってみたいこと、気になっていることはありますか。
中村 大きく2つあって。ひとつは、釉薬の配合とか、表情とか、いろんなところがまだまだ自分の理想に達していないところがあるので、そこに近づけていきたいというのがあります。
あとひとつは、僕はこれからも食器を作っていくと思うんですけれども、まだ作っていないものが食器の中でもいろいろあるので、そこらへんにトライしていきたいなと。今までの延長といえば延長なんですけども。
— 精進していきたいと。
中村 精進というと大袈裟ですけれどもね。
— 中村さんのうつわは、十月の猫ウェブストアでも、1枚だけでなく何枚かまとめて購入したり、追加で購入したりするお客さまが多いんです。陶器市でも大人気ですし、毎日お忙しいでしょうね。
中村 作ることが大変になると新しいものを作り出すことにあまり時間がかけられなくなってくるので、自分の中も課題ですね。今はありがたいことに、ご注文もいろいろいただいて忙しくしているので、それと並行して新しいものにかける時間を作っていきたいなと思っています。
— これからの活動も楽しみにしています。今日は中村さんとうつわについて知ることができて満足感でいっぱいです。お忙しい中、お時間を割いていただき、ありがとうございました。
中村 こちらこそ、ありがとうございました。
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お忙しいはずなのにいつもていねいに接してくださる中村哲雄さん。優しく実直な人柄が、うつわに表れていますよね。今回、陶芸家になられた経緯や、作風を確立するまでの道のりを詳しく伺い、なるほどと深く納得しました。
余談ですが、取材中、中村さんと店主はなんと生年月日が1日違いであることが発覚し、お互いびっくり。これもきっとご縁ですね。これからもどうぞよろしくお願いします。
インタビュー前編はこちら
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