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異国からインスピレーションをうけて個性的なうつわに
川島いずみ 後編

異国からインスピレーションをうけて個性的なうつわに

陶芸作家

川島いずみさんインタビュー【後編】

Interview with Izumi KAWASHIMA

前編では、幼少期から学生時代までを振り返りながら、磁州窯にはまったきっかけを語ってくれた陶芸家の川島いずみさん。後編では、独立してから現在までのお話と、うつわの作り方について伺いました。「十月の猫」で取り扱っているイスラムの軟釉シリーズや、世界の唐草についての考察も興味深いです。ぜひご覧ください。


text・photo/Masami INOSE

クセの強さが「個性」になる

— 文化学院を卒業した後は、益子へ。

川島 はい、益子の製陶所で研修生として働きました。1年働いて、技術的にはまだ未熟だったんですが、隣の真岡市でいい物件が見つかったのもあって、勢いで独立してしまったんです。勝村(*夫で陶芸家の勝村顕飛さん)は文化学院のときの同級生で、彼も私とは別の益子の製陶所で修行していたんですが、同じタイミングで独立しました。同時に結婚もして。今は埼玉で、2人の子供と私の母と一緒に暮らしながら、やきものをつくっています。

埼玉の工房で器をつくる川島さん 


— 最初はどうやって仕事に繋げていったんですか?

川島 つくった作品を自ら陶器店に売り込みに行って、少しずつ置いていただくところを増やしていって。あとは陶器市に出店したり、先輩の紹介で、東京のギャラリーで個展を開かせてもらったりしました。勝村も似た感じでしたね。当時の若手はそんな感じのスタートが多かったです。

— 川島さんのうつわって、偏愛的に好きな方が多そうですよね。

 川島 絵柄がバーン!とあって、しかも黒一色で描かれているので、クセが強すぎて、最初は売り込み先で「これじゃ料理を置けないですよね」と言われたこともあります。作風は、文化学院の頃からあまり変わっていないんです。最初はカニやタコの絵柄ばかりで、今となってはわりとすんなり受け入れられるモチーフなんですが、当時はほとんど通用しなかった。

— タコの絵柄って「十月の猫」でも取り扱いさせていただいている、あのうつわのですか? 私あれ大好きです。初期の作品なんですね。


飯碗 蛸

川島 そうです、当時はあれよりもっと大きくてリアルな感じでした。その後に、唐草や花といった植物モチーフのものを少しずつ増やしていって。

— 唐草や花には、あまりご興味なかったとか? ドラマチックで素敵ですけれども。

川島 興味がなかったわけではなくて、私が通った文化学院が、作家性やオリジナリティを重視する学校だったからだと思います。唐草や花って、ほかの方もつくってるじゃないですか。タコやカニは競争相手があまりいなかったので(笑)。

でも、植物モチーフは本当に奥が深くて、私も大人になるにつれてだんだん良さがわかってきました。やきものの資料を見ると、国によって雰囲気が全然違って、ラフな唐草もあれば、数学的に完璧!という感じの唐草もある。イスラム圏のお殿様向けのやきものに描かれた唐草なんて、完璧すぎて怖いくらい。中国の唐草はわりと真面目。韓国になると一気に自由度が増しますね。

— 「掻き落とし」って、とても手間がかかる技法ですよね。つくるの、しんどくないですか。

川島 唐草や鳥といった絵柄が細かいものはちょっとしんどいですかね。時間がかかるので根気が必要。このリム鉢ならひとつ20〜30分くらいかなぁ。同じテンションをキープしながら5個、10個と絵付けしていくのが大変なんです。楽しいといえば楽しいんですけれども。

 唐草が描かれたリム鉢。直径19cm

異国のうつわに心惹かれて

— 改めて、白黒掻き落としのやり方をざっと教えていただけますか。

川島 まず、土を練ってろくろで形をつくります。少し乾いたら、全体にドボンと白化粧します。絵柄を描くところだけに黒泥をざっと塗り、その上に朱墨で絵柄を描いて、絵柄のまわりをケガキ(*先がフック状になった金属製の道具)で薄く描き落とすんです。きれいに掃除するって感じですね。

— 黄釉のうつわも掻き落としですよね。

川島 はい。でも、こっちは黒泥を塗らず、白化粧を掘り込むので、彫ったところに元の土の色が出て、凹凸と色のコントラストがつくことよって模様がはっきり浮かび上がってくるんです。で、黄色の釉薬をかける。

黄釉

— 緑の釉薬がかかったものは、シックなイメージでテーブル映えしますね。イスラムの軟釉シリーズも、ほかにはないエキゾチックな雰囲気が素敵です。

川島 緑のうつわも掻き落としですね。磁州窯のうつわには、白黒に掻き落とした後、鮮やかな色の釉薬をかけるものもあって、きれいだなと思ってある時からつくり始めたんです。その後に、イスラム、アラビアのうつわにも釉薬の使い方が素敵なものがあることを知って。


緑釉 牡丹

     
            イスラムの軟釉シリーズ

イスラムの釉薬は、青系2色に緑系1色というふうに数種類を組み合わせて使うことが多いんですが、うつわ全体にではなく部分的に使うんです。このやり方を磁州窯と組み合わせてもいいし、イスラムの雰囲気そのままにつくっても面白そうだなぁと思って。
「十月の猫」さんに納めている軟釉シリーズは、掻き落としでもないですし、磁州窯とは関係なく、なるべくイスラムの雰囲気に近づけています。ほぼイスラムの写しみたいなものもありますね、うさぎや鷺(サギ)のとか。

— 川島さんのうつわは、中国だったり、イスラムだったり、タイだったりと、異国のやきものをモチーフとしたものが多いですね。これからつくってみたいものはありますか。

川島 んー、そうですね、つくりたいものはその時々でけっこうコロコロ変わるんですけれども。自分の中では「きちんとしたもの」と「ヘンテコ」を行き来する周期みたいなものがあるんです。ある期間にきちんとしたアカデミックなものをつくり、それに飽きたら、ヘンテコを求めにいく。そしてまた、きちんとしたものに戻り……という繰り返し。そういうペースの中で、つくりたいものを追っていければと思っています。




緻密でアカデミックなものと、ユルくてヘンテコなもの。淡々とした語り口から繰り出される、面白エピソード。川島さんの魅力を一言で言うなら、両極端のギャップかも。二人のお子さんの母としても忙しい日々を送る川島さんですが、そのユニークな個性でどんな新しい器の世界を見せてくれるか、楽しみにしています。(店主)


インタビュー前編はこちら

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